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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第2章 かの女






「ね、中也──












太宰のこと、探す?」






中也を抱きしめながら、綴は訊いた。
綴は情報屋。『情報は正確かつ迅速に』をモットーとした彼女の実力は折り紙つきで、森の秘蔵っ子という肩書きを持ちながらもその森を相手に取引するほどだ。

そんな綴に、太宰の行方を探せないはずがなかった。














「中也のことだから、一発どころか十発くらい、殴ってやりたいんじゃない?」


「首領には、頼まれてねェんだろ」

「うーん、森さんには、頼まれても探さないかな。知らぬ存ぜぬ見つかりませぬでとおすよ。あぁ、法外な値段をふっかけるのもいいね」






──たとえば、この組織とか。


中也が息を呑んだ。にこにこと笑いかける綴の瞳に、悪魔のようななにかを感じて。

中也は訊ねた。





「……っわ、笑えねェ、冗談だな」



「冗談じゃないよ? そう言えば、森さんは確実にこの商談を下りるから。わたしは、森さんのために太宰を探したくない」












──中也がそれを望むのなら、この組織を乗っとるのなんて簡単だけど。



たしかにそう言った綴が少しだけ恐ろしくなって、中也は体を離した。いつもなら愛らしいはずの笑顔が、いまはたまらなく怖かった。









少しだけ考えて、中也は言った。


「……いや、いい。あんなやつ、いなくなってせいせいしてる」






中也の言葉が綴の頭のやや上で響く。その声はいくらか震えていて、そしてずいぶんと苦しそうだった。











「──そっか。中也がそう言うなら、そうだよね」


















──とても、そうは見えないけど。






どうせ、この記憶も失くすことはない。必要になればそのとき再考すればいい。綴は考えることをやめた。







──中也の体温、あったかかったな。










綴の愛する中原中也は、いまここにたしかに生きている。その事実だけが、綴はいとしかった。これからも、そうあってほしい。それだけが、綴の願いだった。














──願わくは、わたしもその隣に。







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