第2章 かの女
あのとき、ちょうど関知した監視カメラの映像と盗聴器の音声を思い出す。太宰のことをよく理解していた男の言葉を。
──人を救う側になれ。どちらも同じなら、佳い人間になれ。弱者を救い、孤児を守れ。正義も悪も、どちらもお前には大差ないだろうが……そのほうが、幾分かは素敵だ。
中也はいろいろと奔走していたみたいだったけれど、綴の異能はあくまで情報収集向き。戦闘は不得手だし、なにより戦力にならない。だから、拠点のいちばん安全な場所で、監視カメラの映像を視ながら、戦況を高みの見物していたのだ。
──自分で判っている筈だ。人を殺す側になろうと、人を救う側になろうと、お前の頭脳の予測を超えるものは現れない。お前の孤独を埋めるものはこの世のどこにもない。お前は永遠に闇の中をさまよう。
あの言葉を、綴はまるで自分に向けられたもののように思った。ずっと孤独で、境遇や考え方も太宰に似たものを感じていたから。ただひとつ違うところは、孤独を埋めるものがこの世にあったこと。綴にとって、それは中也だった。
「おい、聞いてンのか?」
「うん、聞いてるよ。でも、わたしはほんとうに知らなかった。森さんに言わなかったのは、太宰がいなくなっても、わたしにデメリットがないから。それも、たぶん森さんは気づいてる」
──森さんは、いまは太宰よりわたしの異能を優先させた。あとから必要になれば連れ戻せばいいと考えているのか、またはすでにその方法も思いついているのかもしれない。どちらにしろ、わたしや中也がとがめられることはない。
「太宰に、ついていくンじゃねェのか」
「──え?」
「太宰に誘われて、落ち合う段取りもついてンじゃねェのかッて訊いてンだよ!」
──あぁ、やっとわかった。
綴は次第に自分の口角が上がっていくのを感じた。
中也は嫉妬していたのだ。いわゆる心理的リアクタンスと呼ばれる現象。中也が、自分を手に入れたくて焦っている。太宰に取られるのを危惧している。