第1章 太陽の光のもとに鳥は飛ぶ【笛・尾形智】
「重いんだね」
「一眼だからね。これはまだ軽いほうよ。これにでかい望遠レンズをつけるともっと重くなるの」
言って羽実は笑った。これで軽いほうでこれよりもっと重くなるのか…と尾形はカメラに目を落とし、ふと思い止まった。
「…ごめん、操作がわからない」
「あ、そっか、ごめん」
尾形がカメラを羽実に返そうとする、と、羽実は身をよじって尾形の手の中にあるカメラを操作し始めた。
「…!!」
急接近したことにより尾形は身を固くした。張本人はそんなことにはまったく気づかず、ここをこうして…とカメラの説明をしている。なんとかきき終えた尾形は、なんとか心臓を落ち着かせ、画面に映し出された写真を見た。
「うわ…」
それは言葉というより声だった。ごく自然にこぼれた声に自分では気づかないまま、尾形は次のボタンを押す。世界観に引き込まれそうな、美しく、粗く、ひかる写真たち。そこには確かに、真藤羽実の"世界"があった。
「え、えっとー…どう、か、な?」
気まずくなってきたのか、羽実が遠慮しがちに口に出す。
「…すごい。すごいよ。こんなすごい写真、初めて見た」
「そ、それはいくらなんでもいいすぎじゃ…」
否定する羽実に、尾形は首を振る。
「そんなことない。真藤さん、すごくいい写真だよ。写真の知識とかほとんどない俺がいうのもなんだけど…真藤さんの写真は真藤さんの"世界"があって、俺は好きだよ」
今日ここに来てよかった。ここで彼女に会えてよかった。勇気を出してきいてみてよかった。ますます彼女のことが、好きになれたから。
「あ、ありがとう…」
羽実は照れたように少し俯き、また、小さな笑みをこぼしたのだった。