第8章 兄という存在
「太刀ができそうだ?」
いつもより多めに資材を組んで鍛刀を任せた悠青は、鍛刀の精達にそう言われ目を瞬かせた。実際に精達が言葉を発したわけではないのだが、悠青は彼らの言いたいことがなんとなくわかるようになっていた。
「太刀…って初めてだよね」
「あぁ」
太刀に近い打刀はいる。だが〝太刀〟に分類される刀種は初めてだった。
「どんな刀が来るのかな。楽しみだね」
「そうだな」
加州清光を連れ、鍛刀場を出る。一度振り返り、これから現れ出る刀を思った。
三時間二十分後。
鍛刀完了の鈴が鳴り、悠青と加州清光は鍛刀場へ再度向かった。
鉄石の上に、朱に金を織り交ぜた鮮やかな鞘の刀が在った。太刀とのことだが、長さは打刀である和泉守兼定とそう変わらないように見える。悠青はその太刀に近寄ってしゃがみ込み、そっと触れた。悠青の霊力が太刀へと流れ込み、ふわりと桜が溢れ出す。桜は太刀の全身を包み込むとくるくる勢いを増して立ち昇る。立ち上がると、それが自分と同じ頃の大きさだとわかった。やがていつものように頭のてっぺんからさぁっと桜が散り落ちて行く。まず目に入ったのは水縹色。目を閉じていてもわかる端正で柔らかな面立ちに、紺に、鞘と同じ金と朱が映える洋装。手に本体である太刀を手にした青年は、凛とした立ち姿で悠青の前に顕現した。