第7章 救いたいもの、救えないもの、その決意
パァァァン、と喧騒の戦場に嫌なほど響き渡る音があった。最後の時間遡行軍を斬り伏せた和泉守兼定が、音のした方を振り返った。箱館一本木関門の方面だ。
「……土方さん」
堀川国広の声が耳につく。和泉守兼定は奥歯を噛み締め、大きく息を吸った。
「これで、歴史は守られた。そうだろ?〝主〟」
「…あぁ。よくやってくれた」
ぽん、と和泉守兼定の背中を軽く叩く。彼はぐっと顔を持ち上げた。彼の頬に、一筋だけまた、涙が伝った。
「悠青サン」
本丸に着いて手入れを終わらせ解散となると、和泉守兼定が悠青を呼び止めた。堀川国広も同様にその場に待機している。
「どうした?」
「その、だ……」
「……?」
たっぷりの間がある。何か言いたいことがあるのは確かだが、彼の口からそれが出てこない。言い難いことなのだろうかと思ったが、むぐ、と小さく口が動いたあと、その言葉が絞り出された。
「……あんがとな」
「え?」
何が、と問えば、函館の事だと言われる。
「俺を隊長に任命してくれて、心から感謝してる。…俺は土方さんの最期に一緒にいられなかった。そばにはいられなかったが、今度は同じ戦場で戦えた」
「…悔いはないか?」
和泉守兼定が静かに首を振る。
「俺は土方さんの生き様を守ることができた。それで、充分だ」
「…そうか。堀国もか?」
「…正直に言うと、僕は助けたかった」
「国広」
「でも、」
和泉守兼定の言葉を遮るように堀川国広は続ける。
「でもそれは、僕がそばにいたのに土方さんを守れなかったっていう後悔があるからだと思う。だからって、土方さんが生きた証とか歴史を、勝手に変えてはいけないんだって、改めて思ったよ」
「…そうか」
悠青は二人に半歩寄って両手を上げた。そして、ぽんぽんとその頭を撫ぜる。
「よくやってくれた、和泉守兼定、堀川国広。つらいだろうに、それを引きずらず、よく戦ってくれた。お前達は俺の誇りだ。そして…新撰組副長、土方歳三の誇りだろう」
「っ、」
じわり、とまた和泉守兼定と堀川国広の目尻に涙が浮かぶ。今度は戦場の時とは違い、しばらくの間止めることなく溢れ、また心を潤わせていった。