第1章 はじまりの時
こほん、と、こんのすけと名乗った謎の生物、おそらく狐の類なのだろうそれが咳払いをして姿勢を正す。
「西暦2205年の未来、歴史修正主義者と呼ばれる者達が、過去を改変しようと目論み行動しています。時の政府はそれを止めるべく、特別な力を持つ審神者を探しているのです」
「その審神者が、俺だというのか?」
「はい。審神者様は長き歴史の中に存在する刀剣に力を注ぎ、刀剣男士として顕現させることができます。刀剣男士達を歴史修正主義者に対抗させ、歴史をお守りください!」
「待て。刀剣を、刀剣男士に顕現…?そんな力は俺にはない」
「いいえ!このこんのすけ、確かに感じます!貴方様から、審神者のお力を!」
「…」
悠青はしばし黙り込んだ。刀剣に力を注ぐというが、どういった力なのか。どうやって行うのか。問いただしたいことは山ほどある。が、それはまた後でいい。
「それは、俺にできることなのか?」
「はい!貴方様からは強い霊力を感じます。そのお力で刀剣男士を顕現させ、歴史を…」
「わかった」
え、とこんのすけが声を漏らすのがわかった。縁側から降りて靴を履き、こんのすけの前にしゃがみこむ。
「俺にできることなら、やろう」
「ほ、本当でございますか!?」
「あぁ。歴史は過去の人々が積み重ねたもの。改変するなんて許されないからな。刀剣男士を顕現させる…ってのがいまいちわからないが、俺も剣と…霊力の強さには覚えがある。力になろう」
「ありがとうございます!主様!」
パァァっとこんのすけの表情が晴れる様を見て、悠青は小さく笑みを浮かべた。それでは、とこんのすけがまたシャキリと姿勢をただす。たんたんと紋様を叩くと、ふわっと輝き始めた。
「ささっ!主様、こちらへ!」
「あぁ」
こんのすけが少しずれ、悠青を陣の中へと促す。悠青がそこへ立つと、さらに輝きが増した。
「さぁ、行きますよ、主様!」
こんのすけが大きく息を吸い込み、鳴いた。高い声が響き、光の柱が立ち上り、やがて光は細くなって消えた。
「お兄ちゃーん、お菓子もらったから一緒に食べ……あれ?」
ひょこりと縁側へ顔を覗かせた少女。灰皿には火を消したばかりの煙草。つい先程までここにいた証。だがそこに、兄の姿はどこにもなくなっていた。