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三國の世、戦乱を生きた者達【真・三國無双】

第2章 天を掴もうとした手は最期まで【鍾会 夢】











終わった。

全てが、終わった。

司馬昭らの説得により複数名の将が寝返り、鍾会らは不利な状況となった。そしてついに、首謀者である鍾会、茜葎花は捕らえられた。
「…葎花」
「はい、士季様」
「なぜ、私を止めなかった?」
司馬昭らの元へ連行される最中の鍾会からの問いかけに、茜葎花は珍しくぱちくりと目を瞬かせた。そして、ふっと、微笑みを浮かべた。
「嫌ですわ、士季様、その様な愚問を…。…私は鍾士季様の妻。愛する方の為に死力を尽くすのは、当然ではございませんか」
茜葎花の言葉に、鍾会は目を瞠った。視線をななめ下へ下ろし、呟く。
「……苦労をかけたな」
「苦労など。共にいることができて、嬉しく思います。これからも、共にー」
そう口にした時、目的地に到着した。門の先に、この先の未来を統べる、覇者がいる。




反乱し、混乱を巻き起こした首謀者である鍾会と茜葎花は、処刑されることが決定した。それも覚悟の上での進軍だった。ふたりともに、後悔は微塵もありはしなかった。弁解すら、しなかった。だがさいごに、鍾会が顔を上げて司馬昭に言葉を発した。
「…司馬昭殿」
「…なんだ」
「最期に、頼みがあります」
「…言ってみろ」
「少しの間、私達の拘束を解いてください」
ざわ、と周りの兵達がざわつく。司馬昭の後ろに控えた王元姫と賈充が「子上」と口を揃えた。司馬昭は2人を振り返らず、じっと鍾会を見つめている。そんな様子に鍾会は、ふう、とひといきついた。
「今更抵抗なんてしませんよ」
「…わかった」
「子上」
「大丈夫だ」
なんの根拠で、という言葉は司馬昭には届かなかった。司馬昭は兵に2人の拘束を解くよう命じた。縄が完全に解かれると、兵が離れるやいなや、鍾会の腕が茜葎花へと伸びた。
「…士季様?っ」
茜葎花は、鍾会の腕の中にいた。ぎゅ、と抱きしめたまま、鍾会は〝最期〟の言葉を紡いでゆく。
「…お前がそばにいてくれて、良かった。……愛している、葎花」
「っ…!わっ…私も、士季様のおそばにいられて、幸せでございました。最期まで、幸せでございます。愛しております…士季様…ずっと…これからも、ずっと…」
「…あぁ…」





そして、天下を掴もうと伸ばした手は空を切った。だがその手は愛したものを離さず、さいごまで、共にあった。

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