第4章 帰らぬ人
『遅れてしまって申し訳ありません。ご心配もお掛けしまって…』
「大将。そういう堅苦しいのは朝餉を食ってからにしようぜ」
『えぇっ』
皆に一言言おうと思っていたのだが、あっさりと薬研に遮られ、背中を押される。
そして薬研に導かれた先は、いつもの陸奥守さん達のいる席ではなく、小さな短刀達のいる席だった。
『私、ここにお邪魔しても良いの?』
「勿論だ」
薬研に流されるまま、私は短刀達の集まる席に座った。隣には薬研が座る。
私の反対側には前田、大典太さんが座っていた。
「主君、お元気になられたのですね!良かった」
『ご心配お掛けしました』
声を掛けてくれた前田に、ペコリと頭を下げる。
ホントに申し訳ない。この本丸に来てから、誰かしらに心配を掛けてる気がする。
『あ、大典太さん。後程手入れをさせて下さい。昨日寝てしまって出来なかったので』
ふと、その事を思い出し、大典太さんに目を向け言った。
「大丈夫なのか?俺の手入れはいつでも…」
『あー、それは』
一応確認を取るため、反対側にいる薬研に視線を向ける。
薬研は、はぁ…とため息を吐いた後こう言った。
「旦那1人くらいならな。だが飯をしっかり食ってからだ」
『それは勿論!』
薬研からの許可も無事に取れ、私は"いただきまーす"と言って箸を取る。
すると、周りにいた短刀達も小さくではあるが口々に"いただきます"と言った。
「そうだ、大将にまだ兄弟達をちゃんと紹介してなかったな」
ご飯を食べ進めていると、唐突に薬研が口を開く。それに私はコクコクと頷いた。
手入れの時はざっとでしか、名前を聞けなかったから有り難い。
「向かいの左から…」
と、順々に薬研達の兄弟を紹介された。
"藤四郎"ってこんなに兄弟が多いのか。短刀の他にも打刀と脇差、この場にはいないけど、太刀のお兄さんもいると。覚えられるかなぁ。
『粟田口の皆さん。宜しくお願いします!』
軽く頭を下げ、にこりと微笑む。
皆の名前を早く覚えなければ!!
「寅さん!?そっちに行っちゃダメです!!」
という声が聞こえたかと思いきや、足元に何かフワッとした感触が伝わる。
私は机の下を覗き込むと、そこにはなんと白い虎の子供がいた。