第3章 蔵
思い出したように振り返ると、そこには山姥切が呆然と立ち尽くしていた。
『山姥切さん。大丈夫ですか?』
「……っ近い!」
山姥切の顔を覗き込むと、はっとした山姥切が慌てた様子で距離を取る。
『あ、すみません。ボーッとされていたもので。どうかされましたか?』
「何でもない。さっさと手入れ部屋に行くぞ」
山姥切は被っている白い布で顔を更に隠し、先に進んでいってしまった。
こんのすけと私は訳が分からず顔を見合わせ首を傾げた。
手入れ部屋に着くと、昨日と同様窓を開けて手入れ部屋の人形に札を貼り、宜しくと挨拶をした。
暫くしない内に山姥切さんが負傷した人を連れてきてくれた。
その人物はなんというか全身が真っ白だった。肌も着物も。しかし瞳だけは違い、煌々と輝く金色をしていた。
『では、手入れを始めますね』
その人はわりかし軽傷で、手入れも直ぐに終わった。
ただ手入れが終わると大体の人達は直ぐに部屋を出ていってしまうのだが、この人だけは違った。
手入れが終わっても真正面で胡座をかき居座る。
『まだ何処か痛みますか?』
「いいや…」
どうしたものかと山姥切に眼を向けたが、既にその姿は無かった。こんのすけにも眼で問いかけるが頭にはてなマークを浮かべていた。
『えーと…』
「俺は、鶴丸国永だ。あんたに一つ言いたい事がある」
『言いたい事?』
鶴丸さん真剣な表情に私も顔が強張った。
「本丸の奴等があんたをどう思っているのかは知らないが、俺は"審神者"であるあんたを信じちゃいない」
鶴丸の"信じていない"というストレートな言葉にズキンと胸が痛んだ。
「確かに俺達は刀で道具だ。けど今は違う、人の身を持っている。感情もあるし、痛みだって感じる…っそれをあんた等は!!」
直接向けられる言葉の刃。怒り、哀しみ、それに恨みが込められているのが分かる。
閉ざされていた手入れ部屋の襖が開いた。
『山姥切さん』
部屋の出入り口には山姥切が立っており、その傍らには大柄な男性と小さな男の子がいた。
すると鶴丸は突如として立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
『あっ、鶴丸さん!』
呼び止めるも鶴丸は帰っては来なかった。