第3章 蔵
『そういうわけで今日は宜しくお願いします』
「…ふん」
山姥切さんは鼻を鳴らし顔を背けた。
うん、始めはこんなもんだよね。
それじゃあ、と二人と一匹は手入れ部屋に向かおうとしたその時、誰かに"主ー!!"と呼ばれた。
声のした方を向くと陸奥守が血相をかいて走ってきた。
私の両肩をガシッと掴む。
「さっきの話はまっこと(本当)ながか!!?」
『さっきの話、ですか?』
「そや。その主と長谷部が、"その後"って何ちや!!!長谷部に聞いても、答えてくれんし」
『その話まだ続いてたんですね』
そんなに気になる話か。いや、ここでちゃんと答えとかないと変な誤解をされたままになる。
『陸奥守さん。長谷部さんとはただ話をして、流れで一緒に寝ちゃっただけで特に…』
「一緒に寝たぁ!!?」
陸奥守はショックを受けたように固まった。
「主様、私が寝ている間に…」
『こんのすけ、話がややこしくなるからちょっと静かにしてねー。
陸奥守さんも誤解しないで下さいね。一緒に寝たといっても、布団は別々ですし。私は長谷部さんに"何も"してませんから』
と言うと、陸奥守さんは眼を瞬かせて両肩に置かれていた手を離した。
良かった良かった、納得してくれたみたい。
すると今度は陸奥守を呼ぶ声が聞こえてきた。
ひょこっと顔を出したのは、金髪の髪をサイドに結んだ男の子。たぶん、獅子王君だ。
獅子王君は私と目が合うと肩をビクつかせ、襖の影に隠れた。
『ほら、陸奥守さん呼ばれてますよ。当番頑張って下さい!行けそうでしたら、私も後で手伝いに行きますから』
まだ呆けている陸奥守さんを私はその背中を押して言う。しかしその足は途中でピタリと止まり振り返った。
「んにゃ、おまさんはおまさんの仕事をしちょき!またいかん(無理)されてもめぇる(困る)き!」
『いか、ん?』
頭にはてなマークを浮かべる私を他所に、陸奥守さんにいきなり頭をくしゃりと撫でられた。
そして陸奥守は獅子王と共に畑に行ってしまった。
あ…そんなことより、手入れだ手入れ!!