第2章 おはなし
長谷部は苦しそうに手を握り締めた。
表情は此処から見えないが、長谷部さんの様子に胸が強く締め付けられる。
前任の審信者に対する怒り。
長谷部さん達が受けた苦しみに対する哀しみ。
自分がもっと早く助けられていたらという悔しさ。
長谷部からはまだほんの一部の出来事しか聞いていないが、色んな感情が胸の奥で渦巻き、行き場が無いそれは涙となって廉の頬をつたった。
「…っ!!主!?」
私の涙に気付いた長谷部さんが慌てふためく。私は心配を掛けまいと"すみません"と手で涙を拭った。
『違います、長谷部さんのせいじゃないです。すみません、私が泣くのは違うって分かっているんですけど。あの、話してくれて有り難うございます』
私が泣いたって仕方がない。一番辛いのは、長谷部さん達だ。それに私は自分から話が聞きたいと言ったのだら最後までちゃんと聞かないでどうする!
「俺も申し訳ありません。暗い話、でしたね。もう遅いお時間ですし、俺はそろそろ…」
伏し目がちに腰を上げ、立ち上がろうとしている長谷部さんを私は咄嗟に呼び止めた。
『いえ、ちょっと待って下さい。まだ、長谷部さんの気持ちを聞いてないです』
「俺の、気持ち?」
『はい。私に捨てられると考えた理由です。それを話すのに少なからず過去の事が関係しているから、私に話してくれたんじゃないんですか?』
「それは…」
『お願いします。聞かせて下さい』
私は審神者で長谷部さんの主。悩みがあるならそれを解決するのも私の役目。
それに私に捨てられると思わせてしまった原因は、私にある。
長谷部さんは片膝を立てた状態で固まり渋る様子をした後、コクンと首を縦に振った。
「では先程の話の続きから、お話します」
長谷部さんが語ったのは、つい先日の出来事だった。
その日長谷部さんは本丸の五人の仲間と共に、時間遡行軍が出たという時代へ出陣していたと言う。
しかしそこで敵の不意打ちを狙われ、運悪く頭を強く打ち付け意識を失ってしまったらしい。
「そして目が覚めると、本丸でした。
仲間は全員無事だと聞きホッとしたのも束の間、更に聞かされたのが、主が捕まったという事でした」
『…!!』