第2章 おはなし
それがどうしたと言うんだ。決まりごとなど大して特別な事でも無いだろうに。
「それがな、ただの決まりごとではないのだ」
この本丸のルール。
其の一、審神者に逆らってはいけない
其の二、負傷による手入れは重傷者のみとする
其の三、夜枷を命じられた者はそれに応じなければならない
其の四、以上のルールを破った者は刀壊とする
「…とまぁ、これがこの本丸の決まりなんですよ」
これが当然だと言うように言い切る二人に、俺は戸惑いが生じた。
「いやいや待て。主に逆らってはいけないのは理解出来る。だが手入れが重傷者のみだというのは訳が分からない。重傷とまではいかなくても戦いに出れば傷を負う事がある。それに主はそれを治す事が出来るんじゃなかったのか?夜枷というのも……」
戸惑いを口に出すと、それは止まること無く次々と溢れた。
「長谷部よ。今直ぐに納得せよとは言わん。すまぬ、辛いだろうが、耐えてくれ。俺は大切な者を失いたくは無い」
静かにそう告げる三日月に俺は言葉が返せなくなった…
二人が嘘をついているようには見えない。しかし主がそんな人ではないと思いたい気持ちもある。
そんな暗い空気に包まれた部屋を一喝するように、宗三がパチンと手を叩いた。
「此処でうじうじ考えても仕方ありません。夕餉まで時間がありますし、長谷部を本丸の皆さんに紹介がてら案内をしましょう。良いですか?」
「うむ。そうだな、それが良い」
「いや、しかし…」
「私が長谷部を案内しますので、三日月さんは部屋で休憩なされた方が良いでしょう。では行きますよ」
「おい!」
宗三は俺の手を強引に引っ張ると、無理矢理立たせて部屋から連れ出された。
その後宗三に本丸内を案内されたが、話が一向に頭の中に入って来ない。それどころか傷付いた仲間を見る度に胸の中でざわざわと嫌な音がした。
主は何をお考えになっているんだ…主には力があるのに何故それを使わないんだ!!
…っ一人で悩んでも仕方がない、主に直接お聞きするしか!!
そう一人で決意していると、気付けば宗三の案内が終わっていた。宗三は怪訝そうな顔をして俺を見ており、俺は慌てて何でもないと言い張った。