第2章 おはなし
廊下の先に何か有るのかと思ってその先を見るが何もない。三日月はゆっくりと振り返り、ふと眼を細めた。
「優しいな長谷部は…」
「何を言っている。当然だろ、仲間なんだから」
「仲間か。長谷部よ、その心無くすでないぞ」
「…あ、あぁ」
やはり掴めない。三日月は何かを奥底に押し止めているような気もする。俺になまだ話せない何かを。
その後三日月に自分の部屋を教えてもらった。一人部屋で物が少なくガランとした部屋。俺は部屋を一目見ると、三日月と共に薬研が話していた負傷している仲間の治療に向かった。
手入れ部屋という部屋に到着し、その襖を開ける。部屋の中には4人座り込んでおり、その内の一人に包帯を巻き付ける人が一人。その人物に俺は見覚えがあった。
「お前は!」
「おや、長谷部じゃないですか。こんな所でお会いするとは」
「宗三左文字か」
今は人の姿をしている俺達だが、何となく気配のようなものでそいつは宗三なんだと分かった。
この男は俺の前の主、織田信長も持っていたとされる刀だ。
宗三は髪を払い除けると、また治療の続きを始めた。と、そこでその宗三も身体の所々に傷があることに気付く。
「宗三。お前も怪我してるじゃないか」
「これくらい、何ともありません。いつもの事ですし」
「いつもの事って、さっき三日月に話を聞いたが、俺達刀剣男士は傷を負おったら主に治して貰えるんじゃないのか?」
「まだ話して無いのですか、三日月」
宗三の視線を追い三日月へと眼を向ける。三日月は顔を上げ、まだ治療を終えていない仲間の前で膝をつく。
「先ずは手当てが先だ。話はそれからだ」
「……っ」
テキパキと仲間の治療をし始めた三日月に、今すぐにでも聞きたい気持ちを押し込め自分も仲間の治療に向かった。
仲間の治療を終えるとそれぞれの部屋に連れていった。俺と三日月そして宗三は俺の部屋の机を囲むように座った。三日月と宗三は心なしか表情が暗く感じた。
「何でそんなに暗いんだ。それで俺にまだ話していない事ってなんだ?」
そう切り出すと三日月と宗三は顔を見合せた。すると三日月が俺に眼を向け、閉じていた口を開いた。
「この本丸には"るーる"というものがあってな。要は決まりごとのようなものだ」
「決まりごと…」