第2章 おはなし
「……」
しかし薬研は何も言わず、視線を下げるとまた壁づたいによろよろと歩いて行く。何か自分に言いたい事があったのではないか。そうと思って、薬研を呼び止めようとするがそれを三日月に止められた。
「長谷部は自分を案じておれば良い」
「それはどう言う、意味だ」
三日月は俺の質問に答えること無く、横を通り過ぎ廊下を突き進んだ。薬研のことが気になり振り向いたが、もうそこに薬研の姿は無かった。
何も話さなくなった三日月の後を追って行くと、ある離れにたどり着いた。その離れの襖の前に立ち止まる。
「主よ。三日月宗近だ。新入りを連れて参った」
「入れ」
中から男の声が聞こえてきた。その声に従って三日月は部屋の襖を開け中へと入って行き、俺もその後に続いた。
部屋は其ほど広く無く、机や本棚は有るものの派手さの無い殺風景な部屋だった。主と思われるその人は机に向かっていた身体を此方に向け、座るように指示した。
「ほう、お前の名は?」
「はい。へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ」
「何でもか、それは楽しみだな」
主は口の端を持ち上げ、何故か俺を上から下までじっくりと眺めた。俺の姿に可笑しな点でも有るのかと自身に視線を落とす。
自分を見る長谷部に男の審神者は更に笑みを浮かべた。
「フッ…悪いなじっくりと見てしまって。三日月、長谷部を部屋に案内しておけ」
「あい、分かった」
「あ、主!これから宜しくお願い致します!」
「そうだな。また、後でな」
三日月に部屋を出るぞと言う視線を受け、俺は主に一礼すると部屋を後にした。
離れを背に廊下を歩き始める三日月の後を追う。
「三日月、何処に自分を心配する必要があるんだ?特に違和感のようなものは感じなかったが」
「これからだ。これから分かる」
「?」
益々分からなくなってきた。深く語ろうとしない三日月の顔を覗き込むと、三日月が浮かぶその瞳はただ前だけを見据えていた。
「なんだ、俺の顔に何かついておるのか?」
「いや、何でもない。そうだ、この後仲間の治療に行くんだろう?俺も連れていけ人手は多い方が良い」
と言うと三日月は足を止め、自然と自分の足も止まる。