第2章 おはなし
座ってからも長谷部さんの涙は止まらず、ティッシュを箱ごと渡した。
長谷部さんらしく無い理由。
多分それは、お酒が原因だろう。何故そう思ったかというと、長谷部さんから日本酒のような香りがしてきたからだ。
ここは安静にしてもらった方が良いと思うけど、酒に呑まれている今なら、長谷部さんの本音が聞けるかもしれない。
それに、何で私が長谷部さんを捨てるって思われたのか気になるし。
私は背筋を伸ばして長谷部さんの眼を見た。
『長谷部さん、何故私が長谷部さんを捨てると思われたんですか?宜しければ、聞かせていただけませんか?』
そう長谷部さんに問うと、長谷部さんは涙を拭く手を止めた。視線を落としポツポツと話し出した。
「俺は、何も出来ない。刀、だから…」
◯◯◯
深い深い眠りから覚めると、そこは見たことの無い鍛冶場。目の前には人の姿があり、その人は男の俺でも眼を見張る程の美しさがあった。
すると男は小さく吹き出し笑いだした。
「はっはっはっ、そう熱心に見詰められては穴が空いてしまいそうだ」
「あー、すまない、ついな。俺はへし切り長谷部だ」
「そうか、へし切り長谷部か。俺の名は三日月宗近。
まあ、天下五剣の一つにして、一番美しいともいうな」
天下五剣。それは数ある日本刀の中で特に名刀といわれる5振の名物の総称。
三日月のこの美しさはやはりと言うべきか。
「そうだ1つ聞いても良いか?俺は何故このような人の姿になっているんだ?」
「うむ、それは主の元へ案内している中で話そう」
「あぁ、頼む」
三日月の後をついて行きながら、審神者や刀剣男士、歴史修正主義者などについて聞いた。そんな中、よろよろと壁づたいに進んでくる人物に出会した。
「おい!大丈夫か!!?」
「…っ?新入りか?」
側へ駆け寄ると、その白衣を着た少年は俺を見て眼を見開き言った。俺の隣にいた三日月は目線を合わせるようにしゃがんだ。
「薬研、何処に行こうというのだ」
「さっき帰って来た奴らの、治療をしに行くんだ」
「そんな身体でか?無理は良くない。長谷部を案内した後、俺が行こう。薬研は部屋に戻っておれ」
三日月の提案に薬研は少し躊躇した後、首を縦に振った。そして今度は俺の方を向き、何処か哀しげな表情をした。