第2章 おはなし
和泉守さんに視線を向けられ、どうして良いか分からず私も和泉守さんを見つめ返した。
すると和泉守さんは視線を下げ、息を吐きボソリと呟いた。
「……確かに違ぇな」
『……?』
確かに違う。
そう聞こえたが私にはその意味が良く分からなかった。何と違うのだろうか。
「今日はもう早く寝るんだな」
和泉守さんはスっと立ち上がると、部屋の襖を開け部屋から出ていく。
私は急に出て行こうとする和泉守さんを後ろから呼び止めた。
『あっ、待って下さい!えっと、兼さん!!』
「だからオレの名は、もういい。好きに呼べ!んでなんだ、"すみません"と"ありがとう"はもう要らねぇからな」
『…ええっと』
最後に御礼を言おうとしたが、和泉守さんに先を越されてしまった。本人はもう要らないと言ったが、私はまだ言い足りないくらいだ。
「…もう行っても良いか?」
『あー、はい!お休みなさい!』
「あぁ、もう風呂で寝るんじゃねぇぞ」
『ぐっ。気を付けます』
和泉守さんこと兼さんは私の胸にグサリと刺さる言葉と小さな笑みを残し、離れから出て行った。
兼さんの後ろ姿が見えなくなると、一人になった私はまた大きな欠伸して笑みを浮かべた。
兼さんと少しは仲良くなれたかな。ただ、変な奴として認知されてなきゃ良いけど。
私は部屋に戻り布団を整え、こんのすけに目を配る。特に異変が無い事を確認すると、電気を消そうと手を伸ばした。
するとふと足音が聞こえてきた。その足音は何やら急いでいるようで、段々と此方に近付いてくる。
『こんな時間に誰だろう……?』
そう思い襖の向こうに目を向ける。足音は部屋の襖の前で止まり、スパンっと襖が勢い良く開いた。
「主ーー!!」
『長谷部さん!?』
私は思ってもいない突然の訪問に驚きの声を上げた。長谷部さんはいつもの凛々しい感じとは違い、目に涙を浮かべ鼻の頭が赤かった。時折嗚咽を漏らしていた。
『どうしたんですか!?何かあったんですか!!?』
「っ主!!俺を、捨てないで下さい!!俺はまだ……まだ!」
『捨てる?』
取り敢えず落ち着くように言うと、私と長谷部さんは向かい合うように座った。