第2章 おはなし
目が覚めると、目の前には木目の天井があった。
何で部屋にいるんだろう。
ボヤけたままの視界で、肌を撫でる風が吹いてくる方に目を向ける。そこには気を失う前に見た黒髪の人がいた。
『あ!さっきの!!』
勢い良く跳ね起きた私の額から白いタオルが膝の上に落ちた。私は布団が濡れないよう素早くタオルを拾い上げ、眼鏡を探す。
「探し物はこれか?」
『あ、ありがとうございます!』
黒髪の人から眼鏡を受け取り顔に掛けた。視界が鮮明になり、ボヤけてちゃんと見えていなかった黒髪の人の正体が判明した。
『えっと、兼さん!!でしたっけ?』
今日の手入れで会った時、確か兼さんと呼ばれていた人だ。
「オレは和泉守兼定だ」
顔を背ける和泉守さんの手には団扇が握られていた。さっきまで吹いていた風が止んでいる事から、私のために扇いでいてくれていた事に気付く。
『す、すみません!!私のために、その…ありが…っ』
私はふと言葉に詰まった。その原因は記憶を辿った事によるものだった。
自身が覚えている範囲だと、大浴場で眠っている所を和泉守さんに起こされ、驚いた私は湯の中に沈んだ。それを和泉守さんに助けてもらい、という所までしか記憶にない。
そして現在私は自室の布団の上。寝間着もちゃんと着ている。という事は。
『うわああああ!!すみませんすみません!!私が逆上せたせいで!!本当にすみません!!!』
私は全力で和泉守さんに謝った。今の私の顔は真っ赤に違いない。自身の顔に熱が集中しているのが分かる。
『すみません!!ごめんなさい!!』
ああああ!!!和泉守さんに裸を見られてしまったあああ!!恥ずかしすぎる!!!服も着せてもらったなんて、申し訳なさすぎる!!!
「謝り過ぎだ!!別にオレは、大した事はしてない。ほら、これでも飲んどけ」
『あ、りがとうございます』
和泉守さんがコップに注がれた水を差し出してくれた。
私はそれを受け取り一口飲む。そして一息吐いた。
『ありがとう、ございます』
もう一度お礼を言うと、和泉守さんはじっと私の顔を見つめてきた。