第2章 おはなし
パソコンに向かってポチポチと遅いスピードでキーボードを打つ私の横では、薬研とこんのすけが漫画を読んでいた。
『ここは、こう。いや、これか』
文章力が乏しい私は悪戦苦闘しつつも、なんとか昨日の分を終え今日の分へと取り掛かっていた。
とそこへ部屋の外から声が聞こえ、私はそれに答えた。
「夕餉の準備ができたぞー」
部屋の襖を開けて入ってきたのは御手杵だった。
「おっ、もう夕餉の時間か。大将一旦手を止めて俺達も食べに行こうぜ」
「私もお腹が空きましたー!」
薬研は読んでいた漫画を閉じて立ち上がった。しかし私はパソコンに向かって指を動かし続けた。
『ちょっと待って、今筆がのっているから。先行ってて良いよ』
「休憩も大事だと思うぞ」
「そうですよ!それに今晩はこの本丸の方々と顔合わせですよ!」
そう言えばそうだった。でも今此処を離れたらまた進まなくなる気がする。
『もう少し、もう少し…』
「御手杵の旦那、頼んだ」
「おう!」
急に脇の下に手を入れられ、私は強制的に立たされた。更に御手杵さんの肩に担がれる。
「よし、行くか!」
『お、下ろしてください!!今、本当に良い感じなので!』
と言っても御手杵は下ろしてくれず、そのまま部屋を出た。
「まぁまぁ、飯食って風呂に入ってからまたやれば良いだろ」
『それだと、寝ちゃいます!』
御手杵や薬研とこんなやり取り繰り返していると、あっという間に大広間に着いてしまった。
私は肩からやっと下ろされ、大広間の襖の前に立った。
うわ、なんか緊張してきた。
「大丈夫だ。俺達もいる」
入るのを躊躇っていたことを察したのか、薬研が私の背中軽く叩いて言った。
『そうだね』
私は一つ深呼吸をすると、意を決して部屋の襖を開けた。
思いの外、襖を開ける力が強かったらしく、皆の注目を集めてしまった。
大広間の中は夕餉のとても良い香りはするものの、どこか空気が重たい。
「皆!夕餉の前に話があるんだ!大将…」
『うん。この、本丸に新しく赴任してきましたレンです!宜しくお願いします!』
ざわめき始める大広間。中には私に対して鋭い視線を向ける人もいた。