第2章 おはなし
歌仙が作ってくれたのだろうか。美味しそうな香りが廉の腹の虫を騒がせる。
「おっ、あったぜ大将。ちょこれーとだ」
『チョコ?』
薬研の手元には板チョコが握られていた。
「疲れた時にはちょこれーとが良いらしいぜ。あ、それは大将の分だ。だが今食べると、夕餉が食べれなくなるぞ」
私が親子丼を見ている事に気付いた薬研が言った。
うむ、残念……
「大将口を開けてくれ」
『え、自分で食べれるよ?』
「良いから」
高3にもなって自分より小さい子に"あーん"をしてもらうことに躊躇する。
あれ、でも年齢でいうと薬研の方が上なんだっけか?
そう考えている間も中々引き下がってくれない薬研に、私は仕方なく口を開いた。
すると一欠片のチョコレートが私の口の中に放り込まれた。
『美味しい!』
「ちょこれーとは少し食べるだけでも満足感が得られるからな。今みたいな半端な時間に丁度良い」
『へぇ~、薬研詳しいんだね』
薬研と一緒にチョコを食べていると、後ろから"主様!"と声を掛けられ振り向いた。
声の主は何処かに行ってしまっていたこんのすけだった。
「此処に居られましたか!手入れ部屋にいらっしゃら無かったので随分と探しましたぞ!!」
『ごめんごめん、ちょっとお腹空いちゃったからさ』
「そうでしたか!そうそう、あれがやっと届きましたよ!!」
『あれ?』
聞いてもこんのすけは嬉しそうに笑うだけだった。不思議に思った私達はこんのすけの後を着いて行った。
こんのすけが辿り着いた先は本丸の離れにある私の部屋。こんのすけは襖の前で止まり、私に開けるよう促した。
私はこんのすけの視線を受け、部屋の襖をゆっくり開けた。
『おぉっ…』
朝まで机と座布団だけの殺風景だった部屋が沢山の箱に部屋の殆どが埋められていた。
『これって!』
「はい!主様のお洋服等が届きました!あとこれを見てください!!」
こんのすけが差し出したのは、此処に来る前に選んだ仕事服である巫女装束。畳まれていた着物を私は持ち上げて広げた。
下着の上に着る肌着、白衣は白色。白衣の上に着る緋袴(ひばかま)は私の好きな藍色だ。
「今夜の夕餉はこの本丸にいる全員が集まるそうなのでそれを着て行きましょう!」
『これを?』
「はい!」