第2章 おはなし
寝てしまう前の事を思い出すと、私は自身に掛けられている布を退かして起き上がった。
『いつの間に寝ちゃったんだ』
辺りを見回して、こんのすけと薬研の姿が無いことに気付く。私は掛けてあった布を畳んで部屋の戸を開けた。
『誰もいない』
廊下には誰一人見当たらなかった。
『…あ』
ふと視線を落としたその時、部屋の横で座った状態で眠る薬研に気付く。
私が寝ている間、ずっと此処に居てくれたのだろうか。
私は薬研を起こそうと肩に手を触れた。すると突然目を開けた薬研に押し倒され、目の前に刃を突き付けられた。
『うわっ!!……ちょっ、薬研!!?』
「大将!!っすまねぇ!!!」
薬研は私に気付くと、慌てて私の上から退き刀を鞘に納めた。そして私に手を差し伸べる。
私はその手を掴み、起き上がった。
薬研の落ち込んだ表情が目に入る。
『薬研ごめんね、驚かしちゃって。急に起こしたら、そりゃ驚くよね』
「いや、俺っちも悪かった」
更に落ち込む薬研に私は焦った。
『はい!この話はもうお終い!!あー、お腹空いちゃったから、なにか食べに行こう!!』
「…大将」
薬研の手首を掴んで、廊下を突き進む。しかし、私はその途中で立ち止まった。
『ごめん、厨って何処?』
「ぷっ、ハハハハっ!そうだな大将は昼飯食ってないもんな。厨で何か拝借してこよう。あと厨は逆方向だぜ」
『おぅ…』
私は薬研の後をついて行き、目的地の厨に辿り着くことが出来た。
薬研は厨に入って行くと真っ先に冷蔵庫に向かった。冷蔵庫を開けて何かを漁っている。
『あ』
私は厨のテーブルに置いてあるどんぶりに目を向けた。そのどんぶりにはラップが掛けてあって、その上に"主"と達筆に書かれた付箋が貼ってあった。
確か主って私の事だったよね…?
どんぶりのラップを捲って見ると、美味しそうな親子丼が顔を出した。