第2章 おはなし
大広間近くの厨に近付いていくと、食欲をそそる良い香りがしてきた。
「主、此処が厨です」
長谷部のその一言は、厨にいた人達を一斉に振り向かせた。
「おまさん、目が覚めたんやな!!」
「大将具合はどうだ?」
「おお、元気になったんだな」
陸奥守さん、薬研、御手杵さんがわっと押し寄せてきた。
『おぉっ、あの、皆さん。お早う御座います。あと昨日はすみません、ご心配をお掛けしました』
ペコリと頭を下げると、誰かに頭を撫でられた。
「謝らんでええ。無事で何よりぜよ」
「そうだぜ大将。だが、もう無理はするなよ」
『う、善処します』
返す言葉も御座いません。
でも、本当に心配してくれてたんだ。まだ会って間もないのに。
「あぁ、そうだ。あんたにまだ名前を言って無かったな。天下三名槍が一本。御手杵だ。それで、昨日一緒に手入れ部屋にいたのが…」
ピョンピョンした茶髪の背の高い御手杵さんが、もう一人の方を向く。
「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。昨日は、ありがとう」
鍋から目を離し振り返って言ったのは、紫色の髪で前髪を上げておでこを出している歌仙さん。
「それで、大将。厨に何か用でもあるのか?飯ならまだできてねぇんだが……」
「主は朝餉の準備を手伝ってくださるそうだ」
長谷部さんが代弁をしてくれた。
でも薬研にはそれが納得出来なかったようで。
「駄目だ。大将は病み上がりなんだから、部屋でゆっくりしていてくれ」
『大丈夫だよ。ほら、もう元気だし』
目の前で力こぶをつくって見せる。
「おんしゃの"大丈夫"はいまいち信用できんなぁ」
まさかの陸奥守さんからの鋭い一撃。
もう信用されてない…
「あぁ?なんだ、あんたもう起きて大丈夫なのか?」
大きな欠伸をしながら、たぬきさんが廊下の方から歩いてきた。
『あ、お早う御座います。この通り、元気です!』
「そうか、なら良いんだけどよ」
「良くない。大将は安静が一番だ」
薬研は中々頑固だなぁ。本当に元気なのに。