第1章 アフロのカットは職人技
名乗った?いつ?
終兄さんはさっきからずっと「ウンウン」と頷いている。何に納得してるんでィ?
そんな兄さんに、姉さんが耳を寄せた。
「え?何ですか?天パだから切るのが大変です、ごめんなさい?もー、そんなこと気にしないで下さい、私だってプロですよ。いろんな髪質のお客さん見てるから大丈夫ですよー!」
ウンウン
「え?そうしたらボリュームを抑える感じで全体的に3センチくらい短くしてください?はーい、かしこまりましたー!」
ウンウン
ニコニコと笑いながらカットを始める姉さんと、同じく満面の笑みを浮かべながら頷いている終兄さんに、さすがの俺も思わずつっ込んじまった。
「えぇ?!何で今のアレだけで、そこまで分かるんですかィ!!」
それに対する姉さんの返事はのんびりしたものだった。
「んー?まぁ、天パのお客さん他にもいるからねー。天パの人ならではのカットのニュアンス?みたいなのは心得てるからさ」
「いやいや、そこじゃなくてぇぇ!!そもそも終兄さんも大丈夫ですかィ?姉さんにちゃんと正しく伝わってますかィ?!」
そう尋ねた俺に向かって、終兄さんは今までに見たことのないほどの嬉しそうな笑顔を浮かべて、グッと親指を立てたのだった。
こんな感じで、どういう訳だか姉さんは終兄さんの言っている事(考えている事?)が理解できる。テレパシーでもしてるのかってくらい正確に読み取っている。
姉さんは終兄さんと会話(?)ができる唯一のお人なのだ。