第1章 アフロのカットは職人技
俺はもちろん驚いたし、もっと驚いたのは姉さんだろう。姉さんは目を大きく見開いて、ポカンと口を開けた。
「えっ、今のってもしかして、終くんの声?」
ウンウン、と頷く終兄さん。
「アフロを一生切って欲しい…って、それってつまり…」
「ずっと俺と一緒にいてくれませんか、ってことです」
終兄さんは、いつも口元を隠している布をスルリと下ろして、まぎれもなく口を動かしていた。
「し、終兄さんがしゃべった……」
すぐ側まで来ていた俺は、それを見て驚きのあまり思わず声を上げてしまった。
その声に気付いた終兄さんは、俺の姿を見てフッといたずらっぽく微笑む。
「大事な事は、ちゃんと言わないとな」
終兄さんは、姉さんに向き直る。
すると姉さんは手を伸ばして、いつもやるみたいにして終兄さんのアフロを優しく撫でたのだった。
「もちろん、よろこんで」
終兄さんというお人には、会話にも散髪にも姉さんという職人が必要なんでさァ。
二人の幸せそうな笑顔を見て、俺はそう思ったのだった。
Fin