第1章 アフロのカットは職人技
…
あれは姉さんが屯所に来た初日のことだ。
女の髪結師を雇ったということで隊士達は色めき立っていて、その髪結師が初めて屯所にやって来る日は、それァ大層な騒ぎだった。
可愛かったらどうしよう、ブスだったらもっとどうしよう、髪結師との恋が芽生えたらどうしよう俺死んじゃう。
などと、完全にクラスに女子の転校生がやって来ることになった時の男子中学生のノリでほとんどの隊士が舞い上がっていた。
まァ、男ばかりのムサい職場で女っ気に飢えているから仕方ねぇんだが。
そんな訳で隊士達は、髪結師の到着を今か今かと待ちわびていた。そんな絶妙のタイミングで、屯所の門前で声を張り上げた女がいた。
「こんにちはー!今日からお世話になります髪結師のと申しますー!」
その明るい声が屯所内に響いた瞬間、ほとんどの隊士が玄関に向かって走っていったのだった。
まるで討ち入りにでもいくかのような俊敏さだ。いつもアレぐらい動いてくれたら、俺も助かるんだがねぇ。
ちなみに先頭を疾走していたのは他の誰でもねェ、局長の近藤さんでさァ。
俺は丁度、土方さんに飲ませるタバスコを買いに出かけようとしていたところだったから、図らずも真っ先に来訪者の姿を確認することになった。
正面の大門の前にちょこんと立っている女は、背中に仕事道具を山のように背負い込んでニコニコと笑顔を浮かべていた。
小柄だが、身体中からハツラツとした元気が溢れ出しているような雰囲気を持つ女だった。
案内役の隊士がデレデレしながら女を中庭まで案内する後ろに、駆けつけた野郎共がゾロゾロと続く。
土方のヤローもどこからともなく現れて、女と何やら挨拶をしているようだった。
ペコリと女が頭を下げたことで、どうやら話が終わったらしいことが分かる。
女は背負っていた仕事道具を下ろすと、中庭の一角にあっという間に散髪コーナーをセッティングしてしまったのだった。