第3章 お前は誰だ?
ギロリッ
子供の目つきは敵意と表すのにピッタリなくらい、鋭かった。
「……おい娘。いや、確かお前は、メーラと呼ばれていたな?」
「……」
リゾットは声をかけたが、相変わらず子供に反応はない。
「まあ、もしお前がどこかの組織のスパイで、あの場で潜入していたとなれば、十中八九は偽名だろう」
それに、明らかに日本人の容姿でメーラという名前も普通じゃあない。
イタリア人のハーフか?いや、そもそも、イタリア語が通じるのか?
イルーゾォは根本的な疑問を投げかけた。
「つーかこのガキ。イタリア語分かんねーじゃあねえか?喋らないのは、単に言葉が分からねーとかな?ま、そんな腰抜けだったら、あんな大胆な誘拐なんてしねーな」
パッショーネの任務の一環で、特殊な容姿を持つ子どもたちを保護していたら、そこに横やりを刺された。
莫大な金目当てで反抗に及んだ別の組織のスパイ。
リゾットは今のところ、メーラという謎の幼女に、そういう印象を持っていた。
(だったら…)
「I tuoi amici hanno già preso
(おまえの仲間はすでに捕らえている)」
「!」
さっきまで死体のように動かなかった子供は反応を見せた。
ずっと俯いて人形のようだったのに、“仲間”と聞いた途端、不意打ちをつかれたように泡を食らう。
ちなみにリゾットが言ったことは嘘だ。
「なんだ分かんじゃあねえか」
ズーガガガッ キキィーッ!
向こうから白いスピードスケートスーツを着た男が路面を滑って来た。
それは、スタンドの衣をまとったギアッチョだ。
ギアッチョのスタンド『ホワイトアルバム』は、スケート靴と同様ブレードが靴底についているから、走るよりも早く滑って移動が出来る。
かなり速度を出した車にも追い付けるくらいの速さだから、時速80kmは簡単に出せると推定できる。
その速さを生かして今さっきまで、廃墟を中心に辺りをずっと散策していた。
スウッ
能力を解除して普通の外見に戻った。