第1章 序章
某日 午前1:09
「ハァ…ハァ…ハァッ!」
人の気配のない暗闇の道で、男はただ走ることだけを考える。
荒い息切れをしても、それを聞きつけて手を差し伸べてくれる人はいない。
「助けてくれ」と大声で叫んでも、それが聞こえるのは
・・・・・・・・・・・・・
自分を追っている後ろの悪魔だけ。
ガシャン!
フェンスの行き止まりが逃げ道を遮る。
ザッ
「!」
背中から凍り付くような寒気がして後ろをそっと振り返ると、赤と黒の瞳の追っ手が、もうそこにいた。
「ま、待ってくれッ!許してくれ!アンタたちの組織に危害を加えるつもりはなかっ…!」
何故か足の裏から脱力感がこみ上げ、喉の奥から熱い痛みが走り血が吹き出た。
「な…なんだこれは…か…体がッ」
バタリ
もう弁明の声を上げることは出来ず、その場でひれ伏した。
次第に意識が遠のき、心臓の鼓動は無くなった。
「……俺個人はお前には何の恨みはないが、お前のような組織の害になるものを消すのが、“俺たちの任務”だ」
追っ手はターゲットが死んだのを確認したら、その場を立ち去った。
その頃、とある修道院にて。
台所の床には、いくつもの死体とその血液が広がっていた。
その光景にシスターは顔を真っ青にして、後ずさりした。
「な…何のつもりです?あなた…どうして……」
手に持ってるランプの明かりのせいか、目の前にいる人物が不気味に見える。
ソイツは赤く汚れた無表情とナイフの刃先を向けた。
「こ…こんなことをして、神がお許しになるとでも?」
ナイフを持った真っ赤に染まった手が、ゆっくりこっちに向かってくる。
「んん…シスター。なんでこんな時間に…」
『!』
子供が目をこすって廊下から顔を出してきた。
台所のろうそくの明かりがまだ付いていることを不思議に思って、様子を見に来てしまったのだ。
「うあああああぁぁぁっ!」
犯人が気を取られている内に、シスターはナイフを取り上げようと犯人に立ち向かった。
その日の朝、イタリアの新聞の表紙にこのような文章が大きく記された。
『Tremor of the whole of Italy
(イタリア全土 震撼)
Mass murder in the monastery
(修道院関係者 1人残らず虐殺)』