第7章 宴
男の人が同僚と思わしき人たちのところへ戻るのを眺めてふと思い出す。
(名前聞き忘れてない…?!)
やってしまった。
本日二度目の後悔に苛まれていると応対が終わったのか秀吉さんが話しかけてきた。
「どうしたんだ?」
「あの人今日お世話になったのに名前を聞きそびれちゃって…」
そう言ってさっきの男の人の方を指差そうとするとその人がいなかった。
「誰か教えてくれれば俺が名前くらいなら教えてやれるぞ?」
そう言いながら秀吉さんがにっこりと笑う。
(え、タレ目がさらにたれた!ていうかイケメンは何してもイケメンだね…)
そんなどうでもいいことを考えながら私ははい、と返事をした。
そして秀吉さんが信長様が空いたのを見てお酌をしに行ったので私はお膳の料理の残りを食べることにした。
しばらくもぐもぐしていると、
「酒は飲まないのか?」
と上から声が聞こえてきた。
上を向くと琥珀色の瞳と目が合う。
「…明智さん」
「光秀で良い」
光秀さんは白い髪をさらりとゆらし、私の隣に膝をついた。
「では、光秀さん」
「何だ」
「私は未成年なのでお酒が飲めません」
そう言ってさりげなく光秀さんが差し出した杯を押し戻す。
「みせいねん、が何かはわからんが…今幾つだ?」
「十六です。今年十七になります」
私がそう言うと光秀さんはふ、と笑って言った。
「では裳着は済ませていたか。女童だと思っていたが…違うようだな」
何がなんだかよくわからないけど何か馬鹿にされている気がしてならない。
とりあえずお酒を飲むわけにはいかない。
光秀さんのからかいをかわさなければ。
「子供ではないです。大人でもないですけど」
(これならば未成年飲酒を逃れられる…!)
私はそう言い放った。
「そうか」
光秀さんは相変わらず読めない表情(訂正、面白かったという顔)をしながらそう返事し、自分のお膳の前に帰っていった。