第10章 碁
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書庫には割と沢山の書類があった。
三成さんいわく一階と地下に分かれているらしい。
「…わお、広いね」
「私はこれを片していますので何かあったら仰ってくださいね」
「ありがとうございます」
私はちょっと中を見て回る。
そう言えばここにある本は背表紙に題名が書いてない。
何なら巻物まである。
私は一冊抜き取ってパラパラとめくってみた。
(うわあ行書体?崩し字?読めないんだけど…)
かっちりした文字ならまだなんとかなるが完全ににょろにょろしているやつはお手上げである。
「…うーん」
「いかがなさいました?」
私が唸っていると三成さんが後ろから声をかけてきた。
「崩し字が読めなくて」
「左様でしたか」
三成さんは少し驚いた顔をして私が手にしている書物を覗き込んだ。
「!」
私はぽんと手を叩く。
「三成さん、お時間ありましたら崩し字の読み方を教えていただけませんか?」
「私が、ですか?」
「はい、良ければで良いんですけど…」
三成さんは笑顔で言った。
「私なぞで良ければお教え致しますよ。それに、これから信長様の部屋で勝負なさるのでしたら碁も会得された方が良いかと思います」
「碁、って…囲碁?どうして?」
「はい。私達は皆戦術教育のため碁を嗜んでおりますが、信長様は安土で一番お強く、御自身もお好きだからでしょうね」
いや自分の得意分野を持ってくるなんて…
信長様って大人気ないんだなあ…
そこでふと戦場で見た信長様の冷めきった横顔をを思い出す。
(今は関係無いし、あれはやらなきゃいけなかったんだろうなと思っておこう)
「勝てる見込みが無いじゃないですか」
「ひとまず頑張ってみましょう、絢様!」
私は三成さんの笑顔に負けて崩し文字の解読と囲碁を教えていただくことにした。