第1章 出会い
─なんとか、外に出られた。
私達がはあはあと息を切らしていると、男の人が私達の方を見て言った。
「貴様ら、何のために俺を助けた」
「…人助けは人間の基本ですから」
先に息が整った椿が返事をする。
「褒美目当てではないと言うのか…?」
男の人がちょっと驚いたような表情をする。
「なんで当たり前のことしただけなのに褒美…?」
「警察からの賞状とか?」
「あー!なるほど!」
私と椿が盛り上がっていると、男の人がコホンと咳払いをして言った。
「俺を意に介さず話すとは…面白い。貴様ら、名をなんと言う」
「絢です」
「椿です」
「ほう。良い名だ」
男の人はさっき死にかけたというのに少し愉快そうにしている。
そうこうしていると、馬の鳴き声が聞こえてきて、甲冑を纏った人達が数人やって来た。
「信長様っ!」
その中の少し装飾が多い茶髪の男性が勢いよく馬から飛び降り、片膝をついて頭を垂れた。
「ご無事で何よりでございます…っ!」
「うむ」
するとまた馬の足音が聞こえてきて、もう一人、紫の袴を纏った男の人が私達の前に止まるった。
その人も馬から降り、さっきの男の人より半歩くらい後ろに片膝をつき、「ご無事で…!」とホッとしたように言った。
「して御館様、その者たちは…?」
茶髪の人が警戒するようにこちらを睨む。
「絢と椿だ。俺をあの寺から導いてくれた女子らよ」
すると紫の袴を纏った男の人が私達の方に向き直って言った。
「そうだったのですね。我等が主君をお救い下さりありがとうございました。何か褒美を取らせましょう」
男の人がこちらを向いたことで松明の明かりに照らされて私達にも顔が見えるようになった。
(この人、すっごい美形だ…)
「えっと…、さっきも言ったのですが、私達は別に褒美欲しさでこの人を助けた訳ではないので大丈夫です」
するとまたこの男の人も驚いて言った。
「え、そうだったんですか!」
そこにしばらく成り行きを眺めていた茶髪の男の人が敵意剥き出しの顔で言った。
「嘘だろう。警備が付いていて、火事の寺の中に入ったんだ。怪しいやつに決まっている!」
そう立ち上がったその男の人に突然上から声が掛かった。