第7章 宴
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広間の前まで来ると三成さんは歩きながら口に人差指を当てて言った。
「お呼びがあるまでお静かにお願い致しますね」
私達は頷いた。
それにしても不思議だ。
宴というから皆飲み食いして騒いでいるかと思ったのにこの辺りは物音がしない。
(でも厨房があるらへんからいい匂いするんだよなぁ…)
お腹を透かせている私にこの匂いは毒だと思う。
「絢様」
そんなことを考えていると三成さんが小さな声で言った。
「お髪ですが、戦場で切られたということになっております故お話を合わせてくださいますと助かります」
「わかりました」
たしかにこの時代にショートヘアーはちょっとやばいんだろうな…
私は髪について尋ねられないことを祈った。
広間の一番前だと思われる襖の前に着く。
(たしか一番奥はちょっと段差があるんだよね)
一昨日の軍議を思い出しながら広間の間取りを頭に思い浮かべる。
広間の前と思われるあたりを通り過ぎた部屋の襖を三成さんがあける。
「少々ここでお待ちくださいね」
そう言って三成さんは襖を少し開けた状態にすると広間の方へ戻った。
(椿、これどういう状況?)
私は小さな声で尋ねた。
(わかんない…ていうか三成さんもきれいな格好してたね)
(やっぱり宴ってそんなものなのかな?)
謎に疲れた私は体育座りをしながら言った。
(まぁ戦勝宴だからじゃない?)
そう言って椿も座る。
すると「失礼します」と小さな声がして襖が開いた。
「お待たせいたしました。信長様がお呼びですよ」
私達がさっと立ち上がって裾の乱れを直すと三成さんは言った。
「堅苦しいのは最初ですからどうぞお楽しみくださいね」
「「はーい」」
三成さんは広間の一番前の襖まで歩くと片膝をついて襖を少し開けて言った。
「御館様、姫様方をお連れいたしました」
すると中から低い、紛れもなく信長様であろう声が返ってくる。
「大義であった。入れ」