第7章 宴
{このページのみ椿視点}
天主から降りて部屋に帰る途中だった。
すれ違った女中さんたちが
「浴室の方から聞き慣れぬ歌が聞こえる」
「どうやら昨日来た姫様らしい」
という会話をしているのを耳に挟む。
(それ絶対絢じゃん…)
「ははっ」
絢はどこにいっても絢なんだなぁと思い、思わず笑ってしまう。
そこに家康さんが通りかかる。
「…ねぇ、あれはもう一人の方がやってんの?」
と家康さんは後ろをちらりと見ながら私に尋ねてきた。
「十中八九絢だと思いますけど」
家康さんの事だ、何か言うに違いない、と身構えていたためかちょっととげのある言い方になってしまった。
(やっちゃった…)
だが家康さんは「そう」と言ってするりと私の横を通りすぎただけだった。
家康さんは角を曲がる前、背を向けたまま立ち止まって言った。
「…聞いたことないけど、悪くないんじゃないの」
そう言うと家康さんはさっと角を曲がった。
(これは…)
この瞬間、私は家康さんがツンデレであることを確信した。
(「悪くないんじゃない」って…テンプレすぎて逆にびっくりしたわ)
そんなことを思いながら私は部屋へ帰った。