第6章 天主
視界から武将たちがきえて、体から一気に力が抜ける。
なぜこんなにも緊張していたのか。
天主という場所がそうさせたのだろうか。
(早く戻ろう…)
階段を降りようと足を動かす試みをするも痺れを隠蔽しなくてよくなった足は言うことを聞いてくれず、ひたすらにじーんと痺れているばかりだった。
(動け~)
壁を支えにしてなんとか1、2歩進む。
それでもなおままならぬ足に痺れを切らし、足首をぐるぐると回すと私は無理矢理階段まで歩を進めた。
──
「貴様はあやつをどう見る」
椿が階段を下りたのを音で確かめると信長は言った。
「確定は出来ませんが十中八九シロだと思われます」
光秀は椿が完全に階段を下りたのを確認してから言った。
「…貴様もそう見たか」
そう言って信長がちらりと秀吉を見る。
信長は手にしていた巻物を文机に置いた。
「秀吉、今宵の宴でやる褒美は如何程だ?」
「はっ、ただいま用意させてございます」
秀吉は頭を下げて言った。
「そうか。子細を確認し、報告に参れ。ついでに貴様が報告に来るまで人払いだ」
「し、承知致しました」
秀吉は少し驚いた素振りを見せてから小さく礼をし、さっと立ち上がると慌ただしく部屋を後にした。
軽く光秀を睨みながら。
「…人払いは済ませやったが」
「感謝申し上げます」
光秀はそう言うと素早く人一人程離れたところに移動して腰を下ろした。
その目は他人には何事も悟らせまいとするかのように変わらず妖しい。
だが信長は光秀の言わんとしている自分が命じた件の話が動きを見せたのかと悟る。
光秀は信長に懐から取り出した紙を渡す。
「ご報告を」