第6章 天主
信長様はまたふん、と笑って言った。
「貴様は絢とはまた違う面白さを持っておるな」
(面白さって…私は至って真面目なんですけど)
私は後ろの信長様を振り返って軽く睨み付ける。
さっきまでの緊張はどこかに吹き飛ばされたようだ。
信長様は涼しい顔をして尋ねた。
「貴様は今宵の宴には来るのか」
「行く予定ではありますが…」
すると信長様はにやりと笑った。
「ほう、予定とな」
「行かなくなる理由とかあるのか?」
秀吉さんが垂れた目を丸くして言った。
「絢があの状態のままでしたら折角の宴に水をさしてしまいますから」
ここではなるべく穏便な生活をしたい。
初っ端から穏便じゃなかったけど…
「では貴様は一人では来ないということか」
「はい」
だって怖いし。
知らない人ばっかりだろうし、まず何よりお酒飲めない未成年だし。
次に来るであろう質問の答えを頭に浮かべる。
私はすこし視線を泳がした。
「…」
信長様はこちらを少しじっと見てから言った。
「そうか」
(それだけ?!理由とか聞かないんだ)
私は胸をほっと撫で下ろす。
信長様は書物に視線を戻して言った。
「用件は話した。よく考えておけ」
「…はい」
私は慣れない正座で少し痺れた足を悟らせないように無理矢理さっと立ち上がり、秀吉さんと光秀さんの間を通って板張りの廊下(広めの踊り場と言った方が伝わるだろうか)に出る。
「失礼しました」
そう言って私は襖を閉めた。