第6章 天主
階段を登った先にはこれまた豪奢な襖があるだけだった。
(狩野永徳だっけか…)
日本史の授業内容を必死に思い出しても心臓がばくばくすることに変わりはなく、掌がじっとり湿るくらいには汗をかいていた。
まぁ階段を駆け登ったせいもあるだろうが。
クリーム色の小袖を握りしめる。
なんというか、部屋からの威圧感がすごいのだ。
まぁうじうじと悩むのも性に合わないので私は思いきって襖の向こうに声を掛けた。
「椿です。お呼びと伺い、参上いたしました」
「入れ」
わりと即答される。
待たれていたのだろうか。
「失礼します」
そう言って私は襖を勢いよく開けた。
(うわあ…)
噂というか歴史で習ってはいたが本当に豪奢な部屋だった。
黒と金と朱が基調になってる。
だがくどさを感じさせないのは信長様の趣味のよさなんだろうか。
「何を呆けておる。中に入れ」
そう信長様に声を掛けられてはっと我に帰る。
「すみません」
そう言って部屋に足を踏み入れた。
それらしき座布団が用意されていたがたしか言われるまで座っちゃいけないんじゃなかったっけ、と大河ドラマを思いだし襖のすぐ前に「失礼します」と言って座った。
信長様ははじめて書類から目を離しちらりとこちらを見ると眉をひそめて言った。
「何をしておる。そこに座れ」
「あ、はい」
…座って良かったみたいだ。
私はこれまた大河ドラマで見た女の人たちの歩き方を真似て座布団まで歩いた。
そして打掛をさっと外にはためかせて膝をたたみ、座布団の上に座った。
信長様との距離はちゃぶ台を一つ挟んだくらいの距離で、相変わらず信長様は文机から顔をあげなかった。