第6章 天主
織田信長を主にいただく安土城の天守閣は信長が気に入ったのか自身が住むために豪奢に作らせてある、とそう聞いたことがある。
普通一の丸、まぁ少なくとも地上に住むだろう。
天下統一の目前までいったのだからそのくらい謎な人物でもまぁ仕方ない。
そう思っていたのだがここの織田信長はそんな人には見えない。
天守閣に通じる階段がある廊下のまえで私はぼうっと佇んでいた。
案内役の男の人はここまでしか案内できないと言って早々に去ってしまったし…
だがここでうじうじしていても仕方がないので私はそろりと階段の前まで歩き、階段を見上げた。
(高いな…)
階段は一番上の段が辛うじて見えるくらいに薄暗かった。
電気がないんだから仕方ないか。
私はそう思いながら階段に足をかけた。
ギシッ
…中々に物々しい雰囲気だこと。
そう思うと今まで緊張していた自分が妙に馬鹿馬鹿しくなって打掛と小袖の裾を握り、階段を駆け上がった。
その一部始終をどこからか琥珀色の瞳が見ており、椿が階段の上に消えた後、その人も階段を音を立てずに登っていった。
「ねえねえ、あれ…光秀さまじゃない?」
「本当ね。何か御用でもあったのかしら」
「きっとそうよ」