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〈イケメン戦国〉紫陽花の咲く季節

第5章 帰城


(あ、城下町だ。帰ってきたんだ…)

昨日は政宗の早駆けに付き合わされたせいで実は城下町の中を通れていない。

「手前で一旦留まるぞ」

「あ、はい」

たしかに城下町の手前には少しばかり人集りが見える。

「何かあるんですか?」

私は思わず興味がわいて信長様に尋ねる。

「足軽はここで解散する」

「最初と最後は城みたいな決まりはないんですね」

「無論、」

私がそう言うと信長様はさも当然というように言葉を続けた。

「兵の疲れを増すだけのことはせん。一度通りすぎてまた帰ってくるなど愚の骨頂だろう」

「まぁ、たしかにそうですね」

そう答えて人集(ひとだか)り目を凝らすと集まっているのは女の人や子供たちだった。

(帰りを待っているのか…)

「稀に目立った功績をあげたものにはあの場ではなく後日城の者が褒美届けに行く」

信長様は珍しく説明を続けてくれる。

「功績って?」

「一隊の将の首を取る」

「わあ…」

そう言ってる間にも私達は着々と城下町の手前に近づいていた。



全隊(とはいえ500くらいの兵団)が城下町の手前の道脇にある小さな広場らしきところに到着する。

「皆大義であった。ゆるりと休むがよい」

信長様はそう言うと家臣達や城に常駐している兵を率いて城へ馬を再び進めた。

城下町を通ってる途中、私は気になることがあってふと信長様に尋ねた。

「信長様」

「何だ」

お、これは聞いてくれる雰囲気。

「ひとつ聞いてもいいですか?」

「申せ」

「なんで信長様が話している間町の人達や足軽の人達は額を地につけてなきゃいけないんですか?」

すると周りの家臣の人達の顔色が変わったのが感じられる。

(まずったかな…)

だが信長様は周りの予想に反してふん、と笑って言った。

「知らぬ。身分とかいうもの故よ」

しらないとか言ったくせに自分で答えてるじゃないか、という言葉は口に出さないでおく。

「そうですか」

そしてまた会話が終わってしまった。

聞こえるのは家臣や常駐兵たちの話し声といろいろな足音だ。

またしばらくして、

「黒金門だ」

と誰かが言った。

私は前に視線を移す。

ここに来てから2回目の黒金門だがさして何も感じなかった。
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