第5章 帰城
帰りもやっぱり徒歩の人に合わせてゆっくりだった。
(空がきれいだなぁ)
こんな日に限って六月だというのに快晴だ。
「どうした」
森とかの緑とのコントラストが綺麗だなぁ。
「貴様、俺を無視するとは良い度胸だな」
「の、信長様?!」
「…考え事でもしていたか」
信長様が少し呆れたように言った。
「いえ。空がきれいだな、って」
「空?」
そう言って信長様は斜め上を向いた。
「ただの晴れではないか」
信長様が前に視線を戻す。
「だって六月なんですよ」
「水無月に雨が降らなかったのは貴様の功績ではないのか。仕事をしたな」
背中越しにも信長様がにやりとしたのがわかった。
「私にそんな力あるわけないじゃないですか…」
私はげんなりして言った。
「そうだな」
信長様は淡白にそう返した。
(めずらしく自分から話しかけてきたくせに…)
ちょっと拗ねたくもなったがそれは子供っぽすぎると自分を叱咤する。
そこでふと口が動く。
「そういえば、」
私は前を向いたまま信長様に話しかけていた。
「何だ」
─今日はいつ寝たんですか。
その言葉が喉につっかえて出てこなかった。
「やっぱり何でもないです」
「そうか」
信長様は昨日寝ていない。
こんなの聞くまでもない。
事後処理やら何やらで忙しかったのだろうか、私が夜中に少し目が覚めてしまったときでも陣幕のあたりは明るかったし朝だって寝起きの感じが全くなかった。
「…事後処理はどうしたんですか」
たしか一族郎党皆殺しにして城を燃やしてたなとかぼんやりと思い出す。
鮮明に思い出してはいけないと記憶に覆いを被せる。
「粗方済ませた。俺が帰城した後秀吉が詳細を決めに向かう」
やはり聞きたい事があったではないか、と後ろからの圧で言われた気がしなくもなかった。
「それ、いつ決めたんですか」
「先程だ。だが秀吉も解っているだろう」
秀吉さんって苦労人なのかな…?
信長様ってめちゃくちゃ強いし指揮取るの巧いし政治は出来ると思われるけど自由人だしな…
「…そうですか」
そこでまた会話が途切れる。
そうこうしているうちに城下町が見えてきた。