第4章 城下
「失礼致します」
ふみさんが朝餉を持って室内に入った。
「どうぞ」
お膳には玄米のご飯と焼き魚、お漬物、味噌汁が乗っていた。
ふみさんは蓋を開けてお箸を整えながら尋ねてきた。
「椿姫様は昨日城にいらっしゃったという姫様ですよね?」
(そうだ。織田家に所縁のお姫様っていう設定だったっけ)
「…はい。私のことは椿と呼んでくださると嬉しいです」
するとふみさんはとんでもないという風に言った。
「滅相もございません、姫様を名前でお呼びするなど…」
やはりそう簡単にはいかないか。
でもふみさんがあくまで女中という線引きを自分でしてるなら、逆に命令形の方が効果的なんじゃないだろうか。
「じゃあこれは私の我儘です。どうか椿と呼んでください。あと丁寧語だけでお願いしますね?」
そう言ってウィンクするとふみさんは観念したように言った。
「…椿様がそう言うのでしたら」
「ありがとうございます…!」
私は心の中でガッツポーズをして焼き魚を口に入れた。
「そういえば、」
ふみさんが部屋を見渡して言った。
「お着替えをご自分でされたことにも驚きましたが、お布団も片付けてくだすったんですね」
「はい、前に住んでいたところでもしてたのでつい癖で」
するとふみさんは驚いたように言った。
「そうだったんですか。ですが、お布団は別のところに仕舞っていますので明日からはお任せくださいね」
「わかりました」
そこでふと思い出して言った。
「そういえば、絢の部屋に着るものとかがたくさんあったんですけど…」
するとふみさんはああ、というふうな顔をして言った。
「あれは信長様からの贈り物ですよ」
「へっ?!」
思わず味噌汁を変なところにいれてしまい、咳き込む。
「どうかなさいましたか?!」
「いえ、ちょっと味噌汁を気道に入れてしまって」
「きどう…?」
「…こちらの話です。それより私、お金持ってないんですけど…」
するとふみさんは驚いたように言った。
「何をおっしゃってるんですか。贈り物なのですからお金など要りませんよ」
「えええっ、そんな…」
私は最後の一口を頬張る。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「お粗末さまでした。ありがとうございます」
ふみさんがそう言ってお皿をまとめていると、襖の外から声がかかった。