第4章 城下
「椿、朝飯食ったか?入るぞ」
そう言って政宗は私の許可なく襖を豪快に開けた。
「返事を待って開けてくださいよ…」
私がげんなりして言うと後ろから来た家康さんがぼそっと言った。
「…無駄。政宗さんは人の話を聞かないから」
「えええ」
「人聞きの悪いこと言うなよ家康」
政宗はばし、と家康さんの背中を叩く。
「痛っ」
なんてデリカシーがない男だと思ってふみさんに賛同を仰ごうと後ろを向く。
けれど、ふみさんはいつのまにか居なくなっていた。
「あれっ?ふみさんは?」
「お前の女中ならさっき膳を下げに行ったぞ。気付かなかったのか?」
「うん」
どうしよう、気付けなかった…
さっきまで一緒にいたのに…
「そういや、」
私がちょっと落ち込んでいると政宗が言った。
「お前、変わった着こなし方してるな」
「襟の事?」
私は自分のうなじ辺りを指差した。
「ああ。敢えてそうしてんのか?」
「うん。髪あげるならこの方が映えるから」
「成程な。面白ぇ」
「ところで、何でここに…?」
私は武将様が理由もなくここに来るわけがないと思い起こして用事を尋ねる。
すると家康さんがため息をつきながら言った。
「…今日信長様が帰ってくる。昼頃だと思うけど」
「絢は、絢は無事なんですか?!」
「…何も書いてなかったから無事なんじゃないの」
それを聞いて体の力が抜け、へにゃりと地面にへたりこんでしまった。
「良かった…」
「…信長様がいるから死にはしないって言ったでしょ」
「はい…!」
私は立ち上がりながら頷いた。
家康さんって愛想がない失礼なだけの人じゃないかもしれない。
「じゃ、俺達は仕事に戻るから」
そう言うと家康さんはくるりと踵を返して部屋を出ていった。
「じゃーな」
そう言って政宗も部屋を出ていく。
私は武将って自由人なんだな、と思いながら政宗が開け放ったままにしていた襖を閉めた。