第4章 城下
「少し待ってて頂いてもいいですか?」
そう言って私は右手首に着けていたゴムでさっと髪をポニーテールにまとめる。
この時代に襟を抜く風習はないが、ポニーテールをするんだったら抜いた方がお洒落だと思い、襟は抜いてある。
いつもの癖で布団を畳んで部屋のすみに置いて、私は襖を開けて女中さんを中に招き入れる。
「おはようございます。お待たせしてすみませんでした」
女中さん達から視線を感じた。やはり見慣れない着こなしをしているからだろうか。
すると先頭にいた女の人が言った。
「おはようございます。私共は本日から椿様ならびに絢様の身の回りの世話をするよう仰せつかっております。よろしくお願い致します」
ちょうど私の母さんくらいの歳の女の人だった。
「こちらこそよろしくお願い致します。とは言え、着替えも済ませてしまいましたし、何だか申し訳ないので後は朝餉を下げるところを教えていただければ自分でしますよ」
私がそう言うと女中さん達がえっ、とでも言いたげに顔をあげる。
そして先頭の女中さんが微笑みながら言った。
「お召し上がり終わるまで私共の誰かがつきますので姫様はお部屋にいていただいて結構でございますよ」
「何だか申し訳ないですが…、よろしくお願い致します」
そう言って私は頭を下げた。
そしてふと思って言った。
「貴方のことは何とお呼びしたら良いですか?」
「私ですか?」
「とりあえず、はい」
流石に今10人くらい聞いてもわからないだろうし、そんなに付けてもらわなくても大丈夫だし、むしろ本当に申し訳ない。
「私はふみ、と申します」
「じゃあふみさん、朝餉をお願いしても良いですか?冷めてしまっては勿体ないので…」
私がそう言うとふみさんは頷いて何か合図し、他の女中さん達は一礼して去っていった。