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〈イケメン戦国〉紫陽花の咲く季節

第4章 城下





──

夕餉は三成さんの計らいで部屋に届けてもらった。

寝着に着替える前に女中さんがお湯の張った桶と手拭いを持ってきて体を拭くと言ったがそれはさすがに、と遠慮して一人でやった。

(着替えはまだ我慢できるとして、人に体を拭いてもらうのは嫌だな…)

お風呂に入りたかったがそういえばこの時代にお風呂文化は無いことを思い出して我慢した。


布団を敷いてもらい、床に着いたわけだがあまりに慣れない環境下において一人で寝るのも難しく、結局夜中になっても目が冴えていた。

私はもぞもぞと布団から出る。

行灯の光は女中さんが出ていったときに消してくれたので辺りは真っ暗だった。

中庭に面している襖を開ける。
ここは障子が襖の手前にあって、電気の無い時代に明かりを得るため障子があるというのもうなずける。

月明かりが部屋に差し込む。

(こんなに明るいってことは…)

私は障子もそっと開けた。

中庭は月明かりに照らされて何だか幻想的だった。

(たしか昨日が満月じゃなかったっけ)

そんなことを思いながら池の水面に映った月を眺めていた。

暫く月を眺めたあと、私は少し辺りを見渡した。

(誰もいない、よね?)

「~♪」

周りを確認して私は小さな声で歌を歌い始める。
だが声が通ってしまうがために物音に敏感な武将達を筆頭に家臣の方々まで起こしてしまったことを知るのはちょっと後の話。

「月明かりに誘われて…」

ふぅ、とひと息つく。
なんか新鮮だし気持ちいいからもう一曲いこうかと思っていると、突然後ろから声をかけられた。

「何をしている」

「ひゃっ」

声の主は光秀さんだった。

「何って…、歌を歌ってましたけど…起こしてしまいましたか…?」

「ほう、そのような歌は始めて聞いた。俺はもともと寝ていないが…奴等は、な。明日どこぞの霊と間違えられないといいな」

私は一回頭の中で光秀さんの言葉を反芻する。

「起こしてしまったんですか!?」

私は小声で叫んだ。

「さぁな」

そう言うと光秀さんは去っていく。

「ま、待ってください…!」

一人が心細くなって思わず光秀さんを呼び止めるけど、

「よいこは寝る時間だ」

と言って光秀さんは夜の闇に溶けていった。

中庭には変わらず月明かりが降り注いでいた。
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