第1章 出会い
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水無月ニ日、酉の刻と戌の刻の合間
今日は本能寺にて信長主催の茶会が開かれていた。
信長は文化的に優れた感性をも有しており、茶会にあたって茶室から茶器、茶菓子一つ一つにまでこだわった。茶会に招かれた人々が感嘆のため息を密かに漏らしたのは言うまでもない。
信長が主催とはいえ、下準備及び事務を全てこなしたのはもちろん秀吉だった。
短い準備期間でこの場を調えられた秀吉も流石と言えよう。
「御館様、本日の茶会はいかがでしたでしょうか」
「なかなかに有意義であった」
「ご満足頂けたようでなによりでございます」
「うむ、御苦労」
「恐悦至極に存じます」
そのとき、廊下から声がかかった。
「信長様。住職様からの言伝で茶をお持ち致しました。そして秀吉様にも言伝を預かっております」
「入れ」
「失礼致します」
襖を開けて入ってきたのは十四、五くらいの若い坊主だった。
信長に対し緊張しているのがありありと伺える。
秀吉は坊主の緊張を解すように優しく問い掛けた。
「誰からの言伝だ?」
坊主は信長の前に茶と菓子置くと言った。
「秀吉様、門の警護の者が少し警備配置について変更がある為、お話ししたいと申し上げておりました」
「そうか。ありがとな。…では御館様、失礼致します」
「構わん」
信長に一礼し、坊主と秀吉は部屋を去った。
足音が消えると信長は差し出された金平糖をひとつ口に放り、茶を一口含むと仮眠のため柱にもたれ掛かり、目を瞑った。
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