第2章 安土城
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部屋に帰っても私達は暫く無言でいた。
「…ごめん椿、これだけは譲れなくて」
先に耐えきれなくなった絢が口を開いた。
それを聞いて私はそろりと絢の方を向く。
「椿は私にとって恩人で親友なの!危ない目にあってほしくなかった…!」
絢が必死になって言う。
わかる。私も同じ気持ちだから。
絢は私の恩人で親友。
絢がいなかったら今の私はいないって言い切れる。
だからこそ無事でいられる保証がない、戦争をしている危ない場所に行かせたくなかった。
でもこれもわかる。
絢は頑固になると家族や私ですら手をつけられないくらい最後まで自分の考えを曲げない。
これは決定事項も同然なのだと。
私はため息をついて言った。
「絢の気持ちはわかってるつもり。…ちゃんと帰っておいでよね」
すると絢は眉を下げて笑い、「うん!」と言った。
それからまた暫くすると部屋に絢の着替えやらが届いて慌ただしくしてるうちに、迎えの人が部屋にやって来た。
私も見送りがてら黒金門の前まで一緒に着いていった。
目的地は一日で移動できる距離であることを隣に立っていた三成さんに教えてもらい、ほんの少し安心する。
そんなに遠くじゃなくて良かった。
絢は私の方をまっすぐ向いて「行ってきます」と言うと馬に乗っている信長様の元へ走っていった。
「心配か?」
と、いつの間にか隣に立っていた光秀さんに聞かれた。
私は素直に答える。
「…少し」
すると少し前にいた豊臣さんが振り返って言った。
「御館様がいらっしゃれば大丈夫だ。心配いらない。御館様のことだ、明日には帰っていらっしゃるだろうからな」
「はい」
私はそう答えて再び馬上の信長様と絢を見た。
信長様が手綱を操り、馬の頭の向きを変えた。
兵が一斉に姿勢を正す。
「これより謀反を起こした者の討伐に向かう」
辺りはしんと静まり返り、皆が信長様の言う事に耳を傾けていた。
「いざ、出陣」
信長様がそう言うと一斉に兵が進行を始めた。
「絢!」
信長様が動き出す少し前、私達の目が合う。
(…無事で)
椿は頷いた。
遠ざかる親友の背中を見つめて私はひたすら親友の無事を祈るばかりだった。