第2章 安土城
「験担ぎって…、要するに幸運のお守りみたいな?」
私は悔しそうな顔をして返事をした椿に聞いた。
すると椿はちらりと信長様を見てからこくりと頷いて言った。
「まぁそんな感じ。でもほら、私達さ、一応本能寺で信長様を助けたじゃない?だからさ、例えば私達が火の精とかそういう設定にしちゃえば信長様は火の精の加護を受けた人ってことにしちゃえば刃向かったら信長様を気に入っている火の精に焼き尽くされちゃうよ?みたいな感じでさ、脅せるわけ」
「え」
私は椿が言わんとしていることに気付いた。
「それ、うちらは利用されてるってことよね…?」
「うん。滞在許可の代わりにね」
「要するにお飾りでいればいいってこと??」
私がそう言うと上座で信長様がくくと笑って言った。
「そうだ」
「…!」
「表向きは織田所縁の姫ということにしておいてやる。貴様らは化粧でも貝合せでもして遊んでおればよい」
信長様は私達を見下ろしながら言った。
「けわい?かいあわせ?ってなにして遊ぶの、椿」
「えーと、けわいだからはたぶん化粧遊びだと思うんだけど…貝合わせって何、貝合わせる遊びって楽しいのかな」
「楽しくないんじゃないかな」
私達が好き勝手に話していると右側に控えていた豊臣さんが目を吊り上げて言った。
「お前ら、信長様の御前だぞ!私語を慎め!」
すると信長様がにやりと笑って言った。
「よい、秀吉」
私達は怒られたので一応黙った。
「…光秀、貴様はどう見る」
信長様は唐突に明智さんに話を振った。
(今の流れで明智さんの出番ってあったっけ?)
私がそう心の中で首をかしげていると明智さんは言った。
「少なくとも間者ではございません。…足音を立てて歩きますし作法も知りません。その上信長様の御前での数々の無礼、極めつけは右の娘が軍議で寝ていたこと、左の娘も正座に痺れて座りかえたことですね」
「なんでわかったの⁉」
(先生にもバレたことなかったのに…!)
隣でも椿が目を見開いてぽかんとしている。
「簡単なことだ」
明智さんはまたにやりと笑って言った。
「人は少なからず身じろぎするものだがお前は呼吸以外の動きがなかった。それ以外のことは見ていればわかる」