第2章 安土城
「…そろそろ11時だ」
私は腕時計を見て呟いた。針は57分を指している。
「ほんとだ。じゃあ行こう!」
絢は数学の問題集をパタリと閉じて立ち上がった。
私は襖をそろりと開いた。
「「あ」」
するとまさに襖の向こうでちょうど石田さんが中に声を掛けようとしているところだった。
「良かった。今ちょうどお呼びしようかと思っていたところです」
そう言うと石田さんはにこりと笑った。
「あ、石田さん。お迎えに来てくれたんですね!ありがとうございます!」
そう言いながら絢は私の後ろからひょっこりと顔を出す。
「いえいえ、大したことでは無いですよ。それと私のことは三成と呼んでくださいね」
「いや、石田さんは武将様だし、年上だし…」
「名前を呼び捨てるわけには…」
私達が遠慮がちに言うと石田さんは少し考えてから言った。
「では三成の後に親しみを込めてお二人が敬称をつけてくださいね」
そう言って三成さんは天使のような笑顔でにこりと笑った。
私達はあまりの笑顔の眩しさにお互いの顔を見合わせた。
(これが…)
(俗に言う…)
((エンジェルスマイル…!))
「三成さん、そろそろ軍議の時間じゃ…」
絢が私の背中でこっそり時間を確める。
「そうでしたね…!では広間にご案内致します」
そう言うと三成さんは廊下を進み始めた。
「…」
このとき、私達は後ろから観察されていたことに気付かなかった。