第2章 安土城
案内されたのはふすま続きの隣部屋だった。
絢はさっそくごろりと寝っころがった。
「あーあ、豊臣さんめっちゃ疑ってんじゃん」
「ほんとに。なんでだろ」
そう言って椿が二人分のリュックを部屋の隅に置いたのを見て絢が尋ねた。
「あ、ありがと。…てか椿、半刻ってどんくらい?」
「えっとね、確か一時間くらいだよ」
「そうだったんだ!でも一時間経ったかなんてどうやってわかんのかな?携帯電源切れてたし」
そう言いながら絢がリュックに四つん這いで近寄り、中からスマホを取り出す。
画面の上の方には『圏外』という表示があった。
「ま、そうだよねぇ」
絢は鞄に携帯を仕舞った。
「一応バッテリーあるよ」
椿がバッテリーと充電器を取り出す。
「え、すごい!じゃあ一枚写真とらない?」
「一枚くらいいっか!」
二人はいそいそと画面に写るように移動する。
男物を着ている絢と女物を着ている椿。
「はい、チーズ」
パシャ
「なんか和服デートみたい」
絢がはしゃぎながら言った。
「状況が状況だけどね…(笑)」
と椿が言いながらスマホを仕舞う。
「スマホは電波時計だから時間があの時から変わってないし、腕時計は…」
絢がそう言うと二人ははっと顔を合わせてから同時に各自の腕時計を確かめた。
「「生きてる!」」
腕時計ならば壊れない限り日光があれば動き続けてくれる。
「文明の利器だ!すばらしい!」
「助かったぁ」
今は6月3日の10時16分を指していた。
「「11時に間に合えばいいよね」」
二人はそう言うと本を読んだり宿題を広げたりして残りの時間を過ごした。