第1章 出会い
私達はがむしゃらに走った。
とにかく走った。
「きゃあっ」
椿が慣れない着物で走り疲れたのか、裾を踏んで転んでしまった。
「椿!」
私が振り向くと少し離れたところにお坊さんが見えて、ちょっと助けてもらおうと思い呼び止めた。
「そこのお坊さん!すみませんっ!」
お坊さんは立ち止まって振り返り、こちらに来てくれた。
「どうした」
「すみません、友人が転んで怪我しまって…、近くの村を教えて頂けませんか?」
(こんな森があるんだからそうとうな田舎なはず…!)
「ひとつ山を越えねば村は無い」
「そうでしたか…ありがとうございました」
お坊さんは私がそう言うと何か思い出したように身を屈め、私達に言った。
「お嬢さん達、夜の森は鬼が彷徨いている。今度から迂闊に動き回るなよ」
「はい、気を付けます。…あの」
「何だ」
「色々ありがとうございました。良ければお名前を教えてください」
「…自分は顕如と申す旅の僧だ」
「顕如さんですね、私は絢、彼女は椿です」
「そうか」
そう言うと顕如さんは私達に背を向け、歩き始めた。
「あの!」
私がそう呼び掛けると顕如さんは立ち止まった。
「また、お会いしましょう」
「ああ」
そう短く答えると、結局顕如さんはこちらを振り返ることなく行ってしまった。
「お顔に大きな傷があったね」
「…そうだね」
椿は自分のリュックから絆創膏を取りだし(着物にリュックというなんとも言えない組み合わせだが…)、擦りむいた膝に貼ると「おまたせ」と言って立ち上がった。
「行こう」
「うん」
私達は再び小走りで森を駆けていった。