第1章 出会い
「…お前、何を言っている?」
光秀は驚いたように少し目を見張り、
「火事がやはり恐ろしかったのでしょうか…おいたわしい…」
三成は気遣わしげな視線を送り、
「おい、お前、正気か⁉」
秀吉は絢の肩を揺すり、
「…」
信長は探るように絢を見据えた。
とその時、椿が天幕から出てくる。
「絢、お待たせ!聞いてよ、着物の帯が細くてびっくりし…」
「椿っ!この人達ヤバイよ!」
「えっ」
「この織田信長は、あの本能寺の変で死んだはずの織田信長だって…!」
「んなわけないでしょ。絢、今何年だと思ってんの?生きてたらむしろヤバイよ」
「俺は死んだ覚えはないぞ。貴様らが助けたのではないか」
「…え」
「…ね?」
椿が改めて信長様の方を向き、おずおずと尋ねた。
「つかぬことをお聞きしますが、今何年なんですか…?」
「天正十年だ。愚問だな」
それを聞いたとたん椿は目を見開き、数歩後ずさって小さく呟いた。
「ありえない…」
「椿、天正十年って…?」
「…1582年」
「はぁ?」
「…逃げよう絢、たしかにヤバイ!」
「…うん」
私達は頷き合うと手を繋いで一目散に森の方に駆けていった。
「信長様、如何致しますか」
光秀がちらりと二人が消えた方を見やる。
そこに一頭の馬の足音が信長らの耳に聞こえてくる。
「来おったか」
現れたのは青い甲冑を纏った隻眼の男だった。
「ちょっと良い。光秀、政宗を連れあやつらをここに連れ戻せ」
「御意」
「なんかよくわかんねぇけど承知しました」
「の、信長様、あいつらを連れ戻すのですか⁉」
「何か異論でもあるのか」
「い、いえ…」
「ならば口出しするでない」
「…御意」
秀吉が項垂れるように返事したのを確認した光秀は少し離れたところに繋いであった自分の馬を政宗の馬の隣に並べ、ひらりと跨がった。
「行くぞ、政宗」
「おう」
二頭の馬が夜の森を駆けていった。