第9章 褒美
道場には誰もいなかった。
(まじか。信長様、貸しきりにしたのかな?まあ持ち主だしあり得なくはないけど)
信長様がいつ来るかもわからない。
「どうやって時間潰そう」
私は道場をぐるりと見渡してみる。
木刀置き場みたいなところ、真剣が置いてあるところ、廊下と反対側の襖を開ければたぶん鍛練用だと思われる野外のスペースがあった。
たぶん女中さんたちが掃除しているのだろうがちょっと汚い。というよりこれは女中さんたち中に入れてないやつでは…
私は廊下をのぞいて丁度通りかかった女中さんに汚れてもいい手拭いと水をいれた桶を頼んだ。
・──・
「貴様、何をしている」
黙々と掃除をしていると上から聞き覚えしかない声が降ってきた。
「うわぁ、信長様?!」
しまった。ついうわぁとかいう間抜けな声を出してしまった。
「…いい度胸をしておるな」
「驚いてしまって…」
私は驚いた拍子に投げてしまった手拭いを拾って立ち上がる。
「掃除をしていたのか」
いつの間に移動したのか、信長様は木刀が沢山差してあるところにいた。
「はい」
「誰かがやっているはずだが」
「満足に掃除させてもらえてないのではないでしょうか。閉鎖して掃除をする時間も必要かと」
信長様は一理あるな、と呟き木刀のひとつを抜いて私の前に戻ってきた。
「ではさっさと始めるぞ」
「よろしくお願いします」
私は礼をした。
信長様は木刀を握り、私から少し離れた。
「見ておけ」
そして一度刀を振り下ろす。
勢いよく振り下ろされた刀の切っ先がぴたりと止まった。
(あんまりよく見えなかったんだけど…)
信長様は木刀を私に差し出した。
「握れ」
「はい」
木刀を受けとる。
思いのほかそれは重かった。
信長様が刀の握り方の基本を教えてくれた。
どう踏み出して腕をどう使うか、体重ののせ方まで。
私は全部メモした。
信長様は書いている間待っていてくれた。