第9章 褒美
翌朝、朝食を済ませた私はふみさんに無理を言って男物の袴を用意してもらった。
ここ数日着物を着ていたせいかやはり足2本分の筒があるというのはいいな、と足を動かしながら実感した。
支度を終えた私はふみさんに一の丸の場所を教えてもらい、部屋を出て小走りで道場に向かった。
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その様子を見守っていた二つの人影。
「大丈夫そうだな。まああんな面白れえこと言い出すくらいだ。心配要らないな」
「…そうですね」
眼帯を着けた男とふわりとした猫っ毛の男は客間が見える廊下の曲がり角にいた。
「家康、お前も心配してたくせによ」
「してないし…」
家康と呼ばれた男はうんざりとした顔をしてその場から立ち去る。
「どこへいく」
「…別に。関係ないでしょ」
信長からは椿に剣術指導をするという通達が既に下りている。
(あの人が手加減するとは思えない)
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「私は貴方たち武将でも知らないことを知っています!侮るのは早いかと」
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(だからといって弱かったら結局生き残れないから意味が無いんだ)
普通の女子(おなご)に耐えられる訳がない、と思いつつ自室に向かう足が早まるのを気付かないふりをした。